全教(全日本教職員組合)は、11月14日、書記長談話『長時間過密労働解消の課題にかかわる文科省案と財務省案について』を発表しました。
中教審答申をふまえ、文科省が給特法改定案にかかわって2025年度概算要求に教職調整額を2026年1月から13%増額を計上したことに対して、11月11日、財務省は財政制度等審議会に教職調整額の段階的引き上げ案を示しました。
文科省案の問題点
教職調整額増額だけでは長時間過密労働は解消しない
全教は、中教審答申と文科省案は教職員の専門性を強調する一方で、教職員が労働者であることを軽視していると批判してきました。教職調整額を一律に増額することは教職員の処遇改善につながるではあるものの、増額だけでは、いっそうの長時間労働を助長するおそれがあり、長時間労働を法的に規制する時間外勤務に対する手当を支給するしくみが不可欠です。
財務省案の問題点
学校現場の実態をふまえていない
財務省が示した資料は、例年のように教職員の増員を否定した上で、長時間労働そのものではなく、「やりがいが小さく、負担感の多い」外部対応・事務作業・部活動の縮減を図るとしています。そのために2017年に示されて以来、なかなか具体化していない「学校・教師の担う業務に係る3分類」を厳格化し、首長部局や地域への移行を推進するとしています。縮減などの対象には「福祉的な対応」も挙げられています。教職員が担うべき業務について整理することは重要です。しかし、財務省案は、登校拒否・不登校や「いじめ」の増加など、多くの困難を抱える子どもたちに向き合うことが求められている学校現場の実情をふまえないものと言わざるを得ません。教職員の増員とともに全国学力テストなど競争主義的な施策の見直しなどがただちにおこなわれる必要があります。
教職員の定数改善なしに業務の縮減を迫っている
教職員の処遇改善にかかわって、教職調整額を、一定の「集中改革期間(例えば5年間)」を設け、時間外在校等時間縮減の進捗状況に応じて、段階的に10%を限度に引き上げるとしています。さらに、10%に達する際に、労働基準法の原則通りに「所定外の勤務時間に見合う手当」を支給するとしています。
「所定外の勤務時間に見合う手当」と将来的な残業代支給に言及していることは、全教はじめ多くの教職員・保護者・教育関係者の声を反映したものであり重要です。しかし、その段階で、現在は本給扱いとなっている教職調整額がなくなるように資料のイメージ図が描かれており、現職者に大きな不利益変更となります。また、「時間外在校等時間の縮減」の方策として、3分類の厳格化や授業以外の時間の抜本的縮減、勤務時間管理の徹底など従来の「手段」を示すのみで、教職員の定数改善など具体的な手立てを一切示していません。
そもそも、喫緊の課題は長時間過密労働と教職員未配置を解消することなのに、長時間労働の縮減と引き換えに処遇を改善するというのは本末転倒であり、理解しがたいものです。教職員を増やすことなく、時間外勤務の縮減を現場に迫れば、時短ハラスメントの横行や、公教育の役割であるすべての子どもたちへのゆきとどいた教育が実現できないおそれがあります。さらに「業務負担に応じたメリハリある新たな調整手当」の検討は、教職員の分断を生み出すものです。
両省の案はいずれも不十分
教育予算増・教職員定数改善と給特法改正などの総合的なとりくみが必要
長時間過密労働および教職員未配置の解消には、文科省案も財務省案もまったく不十分といわざるを得ません。ところが、あたかも両省の案が二者択一であるかのような矮小化した議論が政府内部で進行していると報道されています。
現場の実態から、両省の案の問題点と限界を明らかにして、全教の「7つの提言」の実現、とりわけ教育予算増と、教職員の基礎定数の改善、給特法については教職調整額を本給であると確認した上で、実際に生じた時間外勤務については残業代を支給する仕組みの実現を求める声を上げ、幅広い共同をつくり、給特法改定案が審議される国会に届けることがきわめて重要な情勢です。全教はそのために奮闘する決意です。