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(全教談話)離婚後共同親権制度導入のための民法改定は、子どもの最善の利益を保障する観点から徹底的な審議が必要であり拙速な採決をすべきではない

全教(全日本教職員組合)は、4月24日、書記長談話『離婚後共同親権制度導入のための民法改定は、子どもの最善の利益を保障する観点から徹底的な審議が必要であり拙速な採決をすべきではない』を発表しました。


4月16日、離婚後も父母双方に子育ての義務と権利、いわゆる親権を認める共同親権の導入を中心とする民法改定案が、一部修正され衆議院本会議で賛成多数で採択されました。4月19日、参議院での審議が始まりました。

今回の改定案は「親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない」と親権の性質を明確にしています。また、離婚後も、父母双方に子どもの養育の責任があることを改めて確認し、養育費の不払いを防ぐため、必ず支払うべき法定養育費の創設も盛り込まれています。「離婚後共同親権」により、養育費の確保や子どもとの面会交流がしやすくなると改定を積極的に評価する意見もあります。

しかし、衆議院の採択に12項目もの附帯決議がともなったことは、「離婚後共同親権」が子どもの最善の利益につながらないのではないかという重大な懸念が解消されていないことを示しています。参議院ではこれらの懸念について十分議論される必要があります。当事者の声を聞きとることも必要です。今国会での成立ありきで採決を急ぐべきではありません。

戦後の民法改正により、離婚後は父母いずれかの単独親権と定められていました。改定案は、父母の協議により単独親権か共同親権かを選ぶことができるようにして、協議が折り合わないときには家庭裁判所が定めるという内容です。

共同親権を選ぶと、子どもに関する重要事項を、離婚後も父母が協議して決めることになります。学校にかかわる重要事項として想定される受験や進学先の決定、転校、修学旅行のためのパスポートの取得などに父母双方の合意が必要となります。意見が対立したときには、家庭裁判所が判断することになります。「急迫の場合」、「日常の行為」は一方の親のみで判断可能となっていますが、その具体例は法案には示されていません。附帯決議は「急迫の場合」等について、ガイドライン等で明らかにすることを求めていますが、学校の教育活動にかかわって保護者の同意を得る際に、父母双方の合意の確認について学校が対応に苦慮するおそれがあります。

そもそも、離婚し、別居している父母が、重要事項をその都度協議して決めることは現実的とは言えません。また、今回の改定案ではDVや虐待等がある場合は、家庭裁判所が共同親権を認めないと定めていますが、家庭裁判所の判断に時間がかかることも予想されます。附帯決議は、家庭裁判所の裁判官、家事調停官、家庭裁判所調査官などの裁判所職員の増員と専門性の向上、調停室や児童室などの物的環境の充実等を求めていますが、いずれも、「離婚後共同親権」制度導入の前提となるべき課題です。

国会審議では、一刻も早くDVや虐待から逃れるために離婚しようと、共同親権を認めざるを得ないことが増え、結果として離婚後もDV等が続くおそれも指摘されています。衆議院では「親権者の定めが父母の双方の真意に出たものであることを確認する措置を講ずるものとする」を付則とする修正案が可決されましたが、問題を先送りするものです。また、保護者等の収入にもとづき受給資格の認定がおこなわれる高等学校等就学支援金にかかわって、共同親権を選択した場合には父母の収入を合算して判定すると文科大臣が答弁しています。結果的に無償化等の支援が受けられなくなるひとり親世帯の生徒が増え、子どもの最善の利益の保障にまったく反する事態が生じるおそれがあります。

改定案の大きな問題点は、親権の決定にあたって、子どもの意見を聞くことが明記されていないことです。子どもの最善の利益の保障という法改定の趣旨に照らせば、子どもの意見表明権の保障はその前提となるものです。

全教は、子どもの最善の利益の保障を求める立場から、離婚後共同親権制度について慎重かつ十分な議論を求めます。「離婚後共同親権」制度導入による懸念が解消されない段階での拙速な採決はすべきではありません。

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