全教(全日本教職員組合)は、3月4日、書記長談話「奈良教育大学附属小学校の教育課程への乱暴な介入について」を発表しました。
1月9日、国立大学法人奈良国立大学機構 奈良教育大学は「奈良教育大学附属小学校における教育課程の実施等の事案にかかわる報告書」を文部科学大臣に提出しました。「報告書」は「令和5(2023)年5月26日、奈良教育大学附属小学校において、教育課程の実施等に関し法令違反を含む不適切な事案がある旨、奈良県教育委員会から本学学長に連絡があった」と述べ、①学習指導要領に示されている内容の実施不足、②教科書の未使用、③職員会議において校長の権限が制約されていたことなどの管理運営、3点の不適切な事項が明らかになったとするとともに、時数不足等についての回復措置の考え方などを示しています。
1月19日、盛山文科大臣は記者会見で「学内調査の確実な実施、適切な学習指導を受けていない児童への回復措置等の実施を指示しております」と述べています。文科省が全国の国立大学法人に大学や附属学校に確認や点検を求める「通知」を発出したことが報じられています。
奈良教育大学附属小学校の教育実践は「みんなの願いでつくる学校」として知られています。教職員の民主的な議論をふまえ、創意工夫された自主的な教育課程づくりと民主的な学校運営は高く評価され、その実践の確かさは、小谷隆男校長の「お詫び」(1月17日)のなかの「本校の教員は子どもに対して実に丁寧にきめ細かく指導してきたことは間違いなく、驚くほど前向きに自分の言葉で話せる児童が多いことも事実です」という言葉にも現れています。
ところが「報告書」は、その教育実践を学習指導要領通りでないということだけで「不適切」と決めつけ、盛山大臣も同調しています。しかし、そもそも学校の教育課程は、子どもや地域の実態をふまえ、各学校で自主的に編成するものです。学習指導要領の前文も、学習指導要領は「教育課程の基準を大綱的に定めるものである」として、「各学校がその特色を生かして創意工夫を重ね、長年にわたり積み重ねられてきた教育実践や学術研究の蓄積を生かしながら、児童や地域の現状や課題を捉え、家庭や地域と協力」することが重要である、としています。
また、国立大学附属学校は教育学研究の役割とともに教員養成でも重要な役割を担っており、教育課程編成の創意工夫がいっそう奨励されるべき存在でもあります。各学校の自主的な教育活動を保障してこそ、子どもたちの自主性を育むことができます。
今回の問題の発端となった奈良県教育委員会から大学への「連絡」、奈良教育大学の「報告書」、そして文科省の「通知」は、学習指導要領の位置づけの一面のみを重視して、現場の創意あるとりくみを否定し、豊かな教育をやせ細らせることにほかならず、教育課程への不当な介入というべきものです。奈良教育大学附属小学校の在校生や回復措置の対象となる卒業生、そして保護者、教職員の当惑と混乱は想像するに余りあります。また、文科省による「通知」は、全国のすべての学校の教育課程編成に一種の「委縮」効果を及ぼすおそれがあります。全教は、文科省に「通知」を撤回することとともに、改めて現場の教職員の自主性・自律性を保障し、創意ある教育課程編成を認めることを求めるものです。
また、学校の民主的な運営を保障し、創造的な教育実践を推進するため校内体制の確立は重要です。その点から、奈良教育大学が実施しようとしている附属小学校の教員の同意のない強引な「出向人事」は、これまでの豊かな教育実践を踏みにじる不当なものといわざるを得ません。
今回の問題の背景として、国立大学の独立行政法人化により、各大学の運営費交付金が削減されるとともに、先の国会で成立した国立大学法人法の改定により、一段と政府が大学の自治への介入を強める動きとの関連も指摘されています。子どもと教育を守る立場にたち、教員や保護者の十分な議論を保障することが求められます。 全教は、現地組織とともに、今後の推移を注視するとともに、人格の完成をめざすゆきとどいた教育を実現するために、学校現場の教育課程編成権への不当な攻撃を許さないとりくみをすすめます。