全教北九州共済会はこちら

この改定案は労働に関する法や規範を逸脱している

「給特法等改定案」が6月11日参議院本会議において可決、成立されました。この法案について6月3日の参議院文教科学委員会で参考人として陳述した東京大学教授の本田由紀さんは「労働に関する法や規範を逸脱するような法律を国が法として定めるということは、恥であり罪である」と陳述をしめくくりました。この改定案の問題はこの一言につきるのではないでしょうか。

改定案の3つの問題

本田教授が指摘した問題点の1点目は、根本的な法律の立て付けに関する問題です。改定案の「時間外在校等時間」について、文科省は自発的な業務であり労働時間ではないとしながら、勤務時間の管理対象にすると言います。管理はするが報酬は支払わないのは大きな問題です。

2点目は、教職調整額の10%への段階的引き上げと、1カ月の時間外在校等時間を30時間まで減らす目標を示しています。仮に30時間まで減らせても、教職調整額10%では時間外労働に対する適切な報酬額に達しません。国立や私立学校の教員には、残業代が支払われるのに、国は公立学校の教員にだけただ働きをさせようとしています。

3点目に、新たに設ける「主務教諭」は教員間で責任や賃金の階層構造を増大させ、互いの専門性に敬意を払いつつ対等に意見を述べ、運営に参加するという学校の在り方を阻害する恐れがあります。

隠された3つのごまかし

1カ月の時間外在校等時間を30時間まで減らすとしていますが、教員を増やす、無駄な業務を削減するなど、実現するための具体策がまったく見えてきません。

①義務特手当などの削減

改定案では、教職調整額を4%から10%まで段階的に引き上げ、2026年1月に5%に、さらに学級担任手当として月額3000円を加算するとしています。しかしその原資のために、現在教員に一律に支給されている義務教育等教員特別手当を1.5%から1%に削減します。しかも、担任手当は特別支援学校・学級の担任は対象外であり、加えて26年度以降、特別支援教育にかかわる「給料の調整額」が見直されます。

②教員を増やさず現場に丸投げ

教育委員会と校長に、時間外在校等時間減少の改善計画策定と公表、実施状況の公開を義務づけています。

しかし教職員定数増など、長時間労働縮減のための根本的な支援策は示さず、いわゆる時短ハラスメントの横行や持ち帰り仕事の増加が懸念されます。

③「新たな職」でトップダウンの学校運営

教諭の上に「主務教諭」という新たな職をつくることも盛り込まれています。本田教授の指摘のとおり、責任と賃金に新たな階層構造が持ち込まれ、トップダウンの学校運営が強まり、集団的な協力共同の関係が破壊されることが危惧されます。

文科省が中教審に示した「教師の『働きやすさ』と『働きがい』実現プラン」からは、主務教諭に様々な仕事が押し付けられるようです。「新たな職」の創設は、教員を競争と管理、自己責任と能力主義で追い詰め、「言われたとおりにやればよい」と自主性・創造性を奪い、教職員の共同を破壊するだけです。

教員不足は解消できない

文科省は、「学校長の人事評価に働き方改革に関する観点を導入する」方針を示しています。

もし学校長が、「教員が抱える業務を減らそう」と実行するなら意味があります。しかし、単に「早く帰れ」と圧力をかけるだけでは、今まで以上に退勤時間の不正な入力を増やす、持ち帰り仕事を増やすだけになってしまい、教員の勤務実態が今以上に見えにくくなってしまいます。

これでは、表面上は働き方改革が前進しても、教員の志望者減少を食い止めたり、若手教員の離職を減らしたりすることにはつながりません。

問題解決は正確な勤務実態の把握から

私たちは、教員の数を増やすための定数改善や、教員の業務を減らすことを求めています。そのためには、労働時間に、休憩時間中の労働(現在の出退勤システムでは、毎日45分間の休憩時間が取られたことになっています)や持ち帰り仕事の時間を含めるなど、正確な勤務実態の把握が必要です。

この記事をシェアして応援していただけるとうれしいです。