全教(全日本教職員組合)は、3月5日、書記長談話『与党と日本維新の会が合意した「高校授業料無償化」について』を発表しました。
2月25日、自民党・公明党・日本維新の会は「高校授業料無償化の拡充」について合意しました。
現在、年収910万円未満の世帯に年11万8800円(公立高校の授業料と同額)を支給する形で「高校無償化」が実施されています。さらに、年収590万円未満の世帯には上限を39万6千円とする形になっています。3党の合意は、2025年度から年収910万円未満という所得制限を公私ともに廃し、2026年度から私立の上限を45万7千円に引き上げる、というものです。
高校授業料無償化については、2010年に「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律 」(以下、高校無償化法)が成立し、所得制限のない「普遍主義的な高校無償化」が始まりましたが、2014年から所得制限が導入され「高等学校等就学支援金 」制度に変わりました。その後、2020年から私立高校への加算支給が前進し、現行の制度となりました。
2012年、日本政府は国際人権 A規約13条2項(b)(c)の留保を撤回し、中等教育(高校など)における「無償教育の漸進的導入」に拘束されると外務省の公式見解が出されています。にもかかわらず、所得制限を導入するというのは同条約留保撤回の趣旨に反する暴挙と指摘せざるを得ないものでした。
今回の3党合意は、「お金の心配なく学びたい」などの声を集めた多くの私学高校生や保護者の運動の反映であり重要な意義をもつものです。年収910万円未満という所得制限を撤廃することで、2010年の「高校無償化法」制定時に戻ることになり、これからの無償教育の漸進的導入に再び向かうことが期待されます。
しかしながら、公立と私立の開始時期に時間差ができてしまったことや、私立高校の授業料を全国平均額まで引き上げるといいながら、その額を上回る私立高校が半数あることになり、支給額として決して十分とはいえません。さらに、授業料以外の学校納付金が私立高校だけでなく公立高校でも高額で、保護者負担は依然として大きいままであり、公立授業料分を出すことで高校無償化になると考えるのは短絡的です。
いま、必要なことは政局の道具にしたり、財政上の制約のある制度化ではなく、権利としての教育無償化を実現するための国会議論です。文科省は「高校無償化法」制定時に、高校生に向けて「社会全体であなたの学びを支えます」と前向きなメッセージを贈りました。3党合意と政府予算案成立を取引するような形ではなく、国会で教育無償化に向けた真剣な議論をおこない、教育予算の大幅増額を実現すべきです。