全教北九州共済会はこちら

中教審答申の大きな3つの問題点

全日本教職員組合(全教)が発表した学習討議資料「このままでは学校がもたない!中教審答申では、長時間過密労働・教員不足の解消はできない!~未来を担うせんせいのためにも、学校にゆとりと希望を~」から中教審答申の3つの問題点と労働安全衛生管理体制の重要性について紹介します。


目次

加配定数での対応では、根本的な定数増にはならない!

  • 国が持ち授業時数の上限を設定して制限すべきとの指摘もあるが、・・・持ち授業時数のみで教師の勤務負担を測ることは十分ではない。 ・・・教科担任制のための定数(加配)の活用により、持ち授業時数の多い教師についてその時数を軽減する取組と併せて、校務分掌を軽減するなど、柔軟に対応していくことが望ましいと考えられる。
  • その際、いわゆる「乗ずる数」を引き上げることによって、持ち授業時数を減少させるとの指摘もあるが、「乗ずる数」の引き上げは、国が教員定数の活用目的を限定しない基礎定数の増加となるため、必ずしも増加した教員定数が持ち授業時数の減少のために用いられない可能性がある。

第4章1 教職員定数の改善と教職員配置の在り方等

2025年度文科省概算要求では、「小学校における35人学級の推進等、義務標準法の改正に伴う定数増」が3637人、「小学校における教科担任制の拡充」2160人、「生徒指導担当教師の全中学校への配置」1380人、「多様化・複雑化する課題への対応」476人等、合計7653人の定数増が要求されています。それに対して自然減等8703人を見込み、結局は1050人の定数減となっています。

加配定数増は4000人程度しかなく、全国の公立小中学校およそ2万7000校に対し、7校に1人程度の増員にすぎません。しかも加配定数は単年度予算であるため、非正規教職員を充てざるを得ません。

長時間過密労働・教員不足は、全国のどの学校でも蔓延している深刻な事態です。そもそも業務量に比して教職員が不足している現状において、一部の学校にしか配置されない加配定数では焼け石に水であり、クラス数×「乗ずる数」によって算出される基礎定数増こそ最優先されるべき政策です。

残業代支給のしくみがなければ長時間労働は解消しない!

  • 教師の職務と勤務態様の特殊性を踏まえれば、勤務時間の内外を包括的に評価し、その処遇として、教職調整額を本給相当として支給するという仕組みは、現在においても合理性を有している。
  • 教師の職務の本質を踏まえると、教育の成果は、必ずしも勤務時間の長さのみに基づくものではないことも併せて考える必要がある。その際、勤務時間内に効率よく職務を終えている教師、自発的に教材研究や授業準備に励み時間外在校等時間が多くなっている教師などが相当数存在する実態も併せて考える必要がある。
  • 時間外勤務手当を支給すべきとの指摘については、教師の職務等の特殊性を踏まえると、通常の時間外勤務命令に基づく勤務や労働管理、とりわけ時間外勤務手当制度には馴染まないものであり、教師の勤務は、正規の勤務時間の内外を問わず包括的に評価すべきであって、一般行政職等と同様な時間外勤務命令を前提とした勤務時間管理を行うことは適当ではない。
第5章2 教職の重要性を踏まえた教師の処遇改善の在り方について

今回の答申では、「教師の職務等の特殊性」「学びの専門職として」を理由に、一般行政職等との同様な時間外勤務を前提とした勤務時間管理を否定しています。

しかし教職員は、教育の専門家であると同時に労働者であり、生活者です。週38時間45分の勤務時間の中で、授業・その準備や通常業務が終えられるようにすることは、使用者の法的な義務です。しかも給特法では、教員の労働時間について、時間外勤務は「時間外在校等時間」として処理され、労働時間と認めていません。

労働時間の通説的な定義は、「使用者の作業場の指揮監督下にある時間または使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事する時間(全教北九州注記 平成7(オ)1266等 三菱重工長崎造船所賃金カット事件)」とされています。それだけの時間を要する業務の遂行を命じた場合には、使用者が明示的に超過勤務を命じなくとも、法的には労働時間とされるということです。 答申は、労働時間に法的な歯止めをかける時間外勤務手当制度をあっさりと否定しました。しかも教材研究や授業準備は自主的なとりくみと位置付けられ、「時間外在校等時間」を多くしていると問題視しています。教員にとって大切にすべきこれらの業務を時間外にせざるを得ない状況を放置し、労働時間として認めないことは大問題です

「新しい職」と「級」の導入は、教職員の協力が不可欠な学校現場を破壊する!

  • 学校の組織的・機動的なマネジメント体制の構築に向けて、若手教師へのサポート機能を抜本的に強化するとともに、子供の抱える課題への対応や学校横断的な取組への対応について、学校内外・調整機能を充実させるため、「新たな職」を創設し、中堅層の教師をこの新たな職として学校に配置できるような仕組みを構築することが必要である。
  • なお、こうした職務については、教務主任や学年主任、生徒指導主事等のいわゆる省令主任として位置付けることも考えられるが、・・・個別に国が一律に法令上の位置づけを与えるよりも、「新たな職」となる教師に対する校長等の職務命令により地域や学校において柔軟に対応できる仕組みとすることが適当である。
  • 「新たな職」を創設することに伴い、職務給の原則に従って、一定の校務分掌の中核となる教師に適切な処遇を確保するため、教諭(2級)と主幹教諭(特2級)の間に給料表上、新たな級を創設する必要がある。
第4章1 新たな職の設置、第5章3 新たな職に対応した級の創設

職階を増やすことで、教職員間に序列化を持ちこみ、収入の面からも格差が広げられます。新たな職の任用にあわせて、能力・業績の評価を強化することを述べています。子どもたちに向き合うよりも、管理職の意向に沿って教育活動を行わざるを得なくなります。若手教師のサポートやさまざまな業務を押しつけられ、自発性・創造性が奪われ、上意下達の管理統制に縛られてしまいます。

今回の中教審では、第10回の特別部会で突然、「主任教諭」を制度化している東京都が報告しています。2008年に副校長、主幹教諭、指導教諭を置くことができる学校教育法改定が行われました。(いまだ10県では導入していません)しかし東京都は、それに先立ち2003年に主幹教諭を、2009年に主任教諭を制度化しています。 1ページ資料でもわかる通り、東京の主任教諭導入前の85%を占める教諭を、導入後大きく2分割し、現在は主任教諭37%、教諭46%という構成比になっています。総人件費を増やすことなく、主幹教諭(特2級)と教諭(2級)の間に新たな級を創設することは、結果として講師(1級)・教諭(2級)の賃金が引き下げられるということにつながります。東京は制度を導入していない県と比べて、大卒初任給が約1万7000円も低く抑えられています。

スクロールできます
「主任教諭」導入前「主任教諭」導入後
6級校長
5級副校長
4級校長主幹教諭
3級副校長主任教諭(37.4%)
主任養護教諭・主任栄養教諭を含む
特2級主幹教諭
2級教諭(85%)
養護教諭・栄養教諭を含む
教諭(45.9%)
養護教諭・栄養教諭を含む
1級講師・実習教員など講師・実習教員など
東京都の公立学校の人事制度の変化

「労安体制の充実」は重要

  • 学校の設置者たる教育委員会は、労働安全衛生法等の関係法令が求める体制を確保することが必須である。
  • 服務監督教育委員会は、労働基準法に基づき、教師が適正な時間に休憩時間を確保すること。
第3章4 教師の健康及び福祉の確保に向けた取組の充実

答申では、第3章4「教師の健康及び福祉の確保に向けた取組の充実」で、労働安全衛生管理体制の充実をはかるよう強調しています。

  • 教職員数50人未満の学校にも、産業医や保健師を選任すること。
  • 教育委員会で産業医を任用・選任し、複数校の健康管理を担当させるなどの工夫を推進する。
  • 教職員数50人未満の学校においても、衛生委員会と同様の審議や意見交換を推進すべき。

「休憩時間や継続した休息時間の確保等」について、

  • 支援スタッフのさらなる配置充実を進めること。
  • 教育委員会は、地域や学校、児童生徒の実態をふまえた柔軟な学級編制や教職員配置が可能である。

等、文科省は9月30日付で「答申を踏まえた取組の徹底等について 」通知を出しています。

この記事をシェアして応援していただけるとうれしいです。
目次