全教(全日本教職員組合)は、10月3日、書記長談話『高等教育の無償化の実現こそ求められる―東京大学の授業料引き上げの決定を受けて―』を発表しました。
9月24日、東京大学は、学部生の授業料・年53万5800円を、2025年度入学生から64万2960円に引き上げることを決定しました。9月10日の引き上げ方針の公表からわずか2週間での決定でした。
2004年度の国立大学の独立行政法人化に続き、2005年度に国立大学の授業料の標準額が53万5800円と定められ、その後、2007年度からは各大学の判断で2割増しまで可能となっていましたが、これまで引き上げは87の国立大学のうち7大学にとどまっていました。今回の東京大学の授業料引き上げが他の大学に及ぼす影響は大きいと考えられます。
3月、中教審「高等教育の在り方に関する特別部会」 で、私大の委員が「国立大学の学費を150万円に値上げすべきだ」と発言したことが大きく報じられました。5月に東京大学が学費値上げを検討していることが明らかになりましたが、学生や教員の強い反対により大学側は正式決定を先送りしました。その後、学生らが求めていた授業料について検討のプロセスへの参加はまったく不十分なまま、今回の決定に至りました。大学授業料にかかわる議論から学生を排除することは、大学の自治の放棄につながりかねない重大な問題です。
6月7日、国立大学協会理事会は声明 を発表し、そのなかで「国立大学を取り巻く財務状況の悪化」を「もう限界です」と述べて、その要因として、国立大学の活動を支える基盤経費である運営費交付金の削減、社会保険の経費の上昇、物価高騰、円安などをあげ、東京大学も6月におこなわれた学生と総長の「総長対話」で同様の理由を述べています。そうであれば、財政状況の改善は、国に対して運営費交付金の増額を求めることが最優先とされるべきであり、学生の授業料負担増に求めるのは誤りです。物価高騰や円安の影響は家計にも学生にもおよんでおり、授業料の引き上げは高校生の進路選択を狭め、学生の学業や生活にも深刻な影響を与えます。
東京大学HP に掲載されている「授業料改定及び学生支援の拡充について 」によれば、授業料引き上げとあわせて、授業料免除の枠を拡大し、全額授業料免除の基準を現在の世帯収入400万円以下から600万円以下とするとしています。しかし、2年次以降には学力基準もあり、何らかの理由で留年した場合は打ち切られるなど、支援を必要とするすべての学生にゆきわたるものではありません。
世帯の収入によらず、あまねくすべての人の学びを保障することこそ求められています。なぜなら高等教育における研究の成果である真理・真実の受益者は現在および将来の社会全体であるからです。
この認識は、全教を含む多くの人々の粘り強いとりくみによって、社会的に共有されつつあります。日本政府は国際人権規約A規約 第13条2項(b)および(c)の留保を撤回し、高等教育の無償化を国際公約し、各政党も教育無償化を公約に掲げています。OECD 加盟諸国中、際立って高い高等教育における私費負担の割合の改善が図られようとしているのに、今回の授業料引き上げの決定は、歴史の針を巻き戻すものといわざるを得ません。政府は、学問の自由と大学の自治を尊重し、大学ファンドに代表される稼げる大学への誘導政策や、運営費交付金の削減政策をやめるべきです。
全教は教育無償化を求め、教育全国署名などのとりくみを展開し、高等教育の無償化については奨学金の会とともに運動をすすめてきました。引き続き今回の授業料引き上げに抗議の声を上げた学生たちをはじめ幅広い共同のとりくみで政府に教育無償化の実現と学問の自由の尊重を求めるものです。