全教(全日本教職員組合)は、11月7日、書記長談話「文部科学省「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果及びこれを踏まえた緊急対策等について」に対して」を発表しました。
文科省は、10月17日、「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果 」を踏まえた「不登校・いじめ 緊急対策パッケージ 」を取りまとめ、都道府県・政令市教育委員会等に「通知」を出し、対応の徹底と生徒指導の一層の充実を図るよう求めました。
「不登校・いじめ 緊急対策パッケージ」では、「不登校緊急対策」と「いじめ緊急対策」、「学校における組織的対応を支える取組」を実施するとあります。
まず、「不登校緊急対策」では、文科省が3月に発表した「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策『COCOLOプラン』」を前倒しするとあります。中身は、「校内教育支援センター(スペシャルサポートルーム等)」と、教育支援センターのICT環境整備、「心の小さなSOSの早期発見」としてアプリ等による「心の健康観察」、「1人1台端末を活用した、子供のSOS相談窓口の集約・周知」を行い、「学びの多様化学校(=不登校特例校)」設置のための全国会議を開催するとあります。
次に、「いじめ緊急対策」では、「不登校緊急対策」と同様のとりくみと、「重大事態に至るケースの共通要素(いじめの背景・原因等)の分析」「いじめの重大事態の調査に関するガイドラインの改訂」「いじめの重大事態調査について、第三者性の確保の観点から委員の人選に関する助言等を行う『いじめ調査アドバイザー』の活用」などを行うとあります。
そして、「学校における組織的対応を支える取組」では、「学びの多様化学校の設置促進」「スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーによる支援」「医師会との連携の推進」「高等学校等における柔軟で質の高い学びの保障」「保護者の会など保護者への支援」をあげ、さらに「学びの多様化学校に対する教職員の優先配置」「スクールロイヤー、スクールサポーター等の外部専門家を加えること」などとあります。
「通知」は、冒頭、「調査結果」によって、2022年度の国公私立の小・中学校の不登校児童生徒数が約29万9千件あり、そのうち学校内外で相談を受けていない児童生徒数が約11万4千人いることや、90日以上欠席している児童生徒数が約5万9千人いること、小・中・高・特別支援学校におけるいじめ認知件数が約68万2千件、うち重大事態発生件数が923件あったこと、それらがいずれも過去最多となったこと、加えて、小・中学校・高校から報告のあった自殺者数が411人だったことや、小・中学校・高校における暴力行為発生件数が約9万5千件で過去最多となったことなどが明らかになったことを受けて、「不登校・いじめ 緊急対策パッケージ」を取りまとめたと説明しています。
しかし、不登校・いじめ・自殺・暴力行為が2020年から増加傾向に転じたことは昨年度の同調査からも明らかでした。にもかかわらず有効な手立てを打つことなく、今になって急に対策を講じようとしているように見えます。何か手を打つことに意味はありますが、「緊急対策パッケージ」には大きな問題があります。
文科省の不登校対策の切り札「COCOLOプラン」は、「学びの多様化学校」を全国に設置し不登校児童生徒の受け皿とすることや、1人1台端末「活用」で「心の小さなSOS」に早期に気づくこと、「学校の風土の『見える化』」、子どもたちが主体的に校則等の見直しを行うことなどが示され、2024年度概算要求に関連予算が計上されています。
「緊急対策パッケージ」が「COCOLOプラン」の前倒しであるため、抜本的な改善策になるとは考えられません。中でも「学びの多様化学校」は全国300校設置目標に対して現在24校に過ぎません。そのような学校では多様な子どもたちに対する柔軟な教育課程がつくられ、競争と管理で子どもたちを傷つけ苦しめる学校とは異なるものになっている面が見られます。しかし、子どもたちの実態に即した教育課程による学校づくりはすべての学校で行われるべきもので、「特例校」として各都道府県に設置し、そこに不登校児童生徒を集約すればよいというものではありません。
さらに、「1人1台端末」が子どもたちのSOSをキャッチするツールとして「活用」するとありますが、「GIGAスクール構想」で半ば強引に導入した「1人1台端末」をこのような場面で使おうとするのは、目的外使用ではないでしょうか。「心の健康観察」は、子どもたちの心の状態をICTで記録・集約することになり、プライバシーの問題もあり、個人情報流出も懸念されます。文科省の過剰なほどのICT頼みは、子どもたちの人格の完成を目指す教育の本質からかけ離れたものです。
不登校をはじめ、いじめ・自殺・暴力など、子どもたちのさまざまな実態は、子どもたちの生きずらさ、自分が丸ごと受け止められない悲しみや苦しみ、保護者の厳しい生活環境からくる子育ての悩みなど多様な背景のもとで生まれてくるものです。その上に、学校は全国学テや受験競争に象徴される過度な競争と、「ゼロ・トレランス(寛容ゼロ)」や「○○スタンダード」による管理・統制がますます強化され、子どもたちを苦しめています。
文科省の2021年度「不登校児童生徒の実態把握に関する調査報告書 」では、小学生が最初に学校に行きづらいと感じ始めたきっかけで一番割合が高いものは「先生のこと(先生と合わなかった、先生が怖かった、体罰があったなど)」が30%であったことが明らかにされています。これに対して今回の調査では、小学生の不登校の要因は「無気力・不安」が50.9%、「生活リズムの乱れ、あそび、非行」が12.9%とされ、2021年度の調査と明らかに異なる結果が示されました。2021年度が子どもから直接聴き取ったものであったのに対し、今回の調査は学校(教員)が回答したことによって生じた違いであると考えられます。子どもの声を聴き取ることの大切さがわかる事例です。
今、必要なことは、学校や社会を変え、子どもたちが生き生きと学び、遊び、生活できる場をつくることです。それを行うのは、「1人1台端末」やSNSではなく、生身の人間です。子どもたちに寄り添い、声を聴き、良いところも良くないところも丸ごと受け止め慈しむ人(=おとな)の存在です。学校で子どもたちの成長・発達を保障し、学びを保障するために一番大事なことは教職員を増やすことです。教職員の長時間過密労働は、子どもたちが「ねえ、せんせい」と話しかける間を与えず、子どもたちの思いを受け止めるゆとりのない学校をつくる結果につながります。教職員の長時間過密労働解消は、子どもたちの教育条件改善に強く結びついています。
しかし、文科省は「通知」で、教育相談体制の充実が必要であるとしながらも「限られた人員の中でもより効果的な工夫を行い、学校における教育相談体制の充実に努めること」を学校現場に押しつけようとしています。長時間過密労働に苦しむ現場の教職員に、人は増やさないから「工夫」して何とかせよと言うなどあり得ないことです。文科省は責任を持って教職員を増やすことがもとめられています。
全教は、子どもたちがえがおでのびのび、生き生きと学び、遊び、生活することができ、一人ひとりが大切にされ、成長と発達が保障される学校づくりのために全力をあげてとりくみをすすめる決意です。