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(全教談話)子どもの権利の実現をめざし、憲法と児童憲章、子どもの権利条約にもとづく子ども施策の推進を~「こども家庭庁設置法」「こども基本法」等の可決成立にあたって~

全教は、6月17日、書記長談話『子どもの権利の実現をめざし、憲法と児童憲章、子どもの権利条約にもとづく子ども施策の推進を~「こども家庭庁設置法 」「こども基本法 等の可決成立にあたって~』を発表しました。


6月15日、政府提案の「こども家庭庁設置法」(以下、「設置法」)、自民党・公明党提案の「こども基本法」(以下、「基本法」)などの子ども関連法が可決成立しました。

子どもの貧困、いじめ、虐待、不登校、自殺率の増加など、国内における子どもをめぐる状況は、長引くコロナ禍の影響もあってきわめて深刻であり、重大な権利侵害が生じています。日本政府も批准した子どもの権利条約 (以下、「条約」)にもとづいて「立法措置、行政措置その他の措置を講じ」(条約第4条)、子どもの権利を実現することは、緊急かつ重要な課題となっていました。

しかし、「設置法」には「条約」への言及がなく、こども家庭庁の設置にあたって、「児童の権利に関する条約の精神にのっとり」とした「基本法」との関係も明確ではありません。「基本法」は、「生命、生存及び発達に関する権利」「子どもの最善の利益」「子どもの意見の尊重」「差別の禁止」という条約の「4つの一般原則」が盛り込まれてはいますが、総体としては、政府がこども施策の「大綱」をつくって自治体に実施させるための「施策推進法」となっており、子どもの権利を具体化するための「権利保障法」ではありません。

以下、今回の「設置法」「基本法」等に関する問題を5点にわたって指摘します。

第1は、子ども施策の権限が内閣総理大臣と内閣府に集中することです。こども家庭庁は内閣府の外局に位置づけられ、内閣総理大臣を議長とする「子ども政策推進会議 」の審議にもとづいて、他省庁より高い位置から政策の「総合調整」を行います。資料の提出や説明を求めることができ、政策が不十分な場合には是正を要求する「勧告権」を持ちます。現政権の、自己責任と効率優先の新自由主義的な方針が、子育てや教育の施策に反映させられてしまうことが危惧されます。

第2は、当初検討されていた「こども庁」が「こども家庭庁」に変わり、「基本法」にも子どもの「養育は家庭が基本」と明記されたことです。子育ての自己責任・家庭責任や、「あるべき」家庭・子育ての姿が押しつけられ、子どもや保護者が一層追いつめられてしまうことが危惧されます。また、自己責任の押しつけは、子育てを支える国の責任を後景に追いやるものです。

第3は、子どもの権利のとらえ方が一面的であることです。「設置法」には、こども家庭庁の「分担管理事務」として「こどもの権利利益の擁護」が明記されていますが、それは「虐待の防止」と「いじめの防止」などに限られ、政府や行政による子どもの権利侵害などは想定されていません。「基本法」にも、「4つの一般原則」の1つである「意見を表明する機会」や「社会的活動に参画する機会」の保障についての具体的な記載がなく、「SNSで意見を聞く」(国会答弁)など、形式的なものになってしまうことが危惧されます。政策への異議申し立てや表現しにくいことも含め、発達段階をふまえて子どもの意見をまるごと受けとめることができるようにするための施策と条件整備が必要です。

第4は、「子どもコミッショナー」など、「子どもに適した方法で子どもからの苦情を受け取り、調査し、必要な措置を講ずる仕組みを含む、人権をモニタリングする独立した仕組み」(第4・5回国連子どもの権利委員会最終所見12(a) )の創設を見送ったことです。名称はさまざまですが、海外でも70か国以上、国内でも約40の自治体で設置されており、2021年9月の日弁連「子どもの権利基本法の制定を求める提言 」においても、その設置が要請されていました。子どもの権利を守るためには、行政から独立して施策を監視し、個別に権利救済を行うしくみの構築が不可欠であり、重大な問題です。

第5は、子どもに関するデータの連携・利活用による「子どもデータベース」の推進です。子どもや家庭の情報をAIに分析させ、「プッシュ型支援」「アウトリーチ型支援」を行うためだとされていますが、不利益な情報が「デジタルタトゥー」となって生涯にわたって影響を及ぼすなど、重大な権利侵害が危惧されます。福祉の現場からは、「子どもや保護者の中に『管理されている』という意識がはたらき、本当に必要な支援ができにくくなってしまう」など、批判の声が上がっています。支援を強めるために必要なのは、子どもや家庭によりそって機敏に対応できる専門職員の増員と体制の強化です。

こども家庭庁設置にあたって、教育に関する課題については「憲法と教育基本法を頂点とする教育法体系のもとで行われるものであるから」(国会答弁)という理由で、明確な規定は設けられませんでした。しかし、国連子どもの権利委員会は、1998年の第1回以来毎回、過度な競争と管理の教育、いじめ・暴力などの深刻な権利侵害への対策を講じることを日本政府に勧告しています。行政が教育内容に介入することは、あってはならないことですが、子どもたちがストレス状態に置かれ、「子ども時代を享受できない」など、この間の教育政策に起因する深刻な権利侵害の実態を放置することは許されません。

「4つの一般原則」のみならず、条約に規定されたすべての子どもの権利を全面的に実現するためには、子ども施策だけでなく政府のあらゆる政策を子どもの権利の視点から問い直し、根本的転換をはかること、子ども関連予算を抜本的に増額し、子どもにかかわる専門職を大幅に増員することが不可欠です。国会審議の中で岸田首相は子ども関連予算を倍増すると答弁しましたが、財源やそのための具体的な道すじについては明らかにしませんでした。一方、「骨太の方針2022 」は、「防衛力の抜本的な強化」を掲げ、「NATOでは国防予算を対GDP比2%以上とする基準」などと記述しています。こども家庭庁を設置するのであれば、防衛予算の大幅増額よりも、ただちに子どもの権利を実現するための予算増額に踏み出すべきです。

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