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(全教談話)データの利活用ロードマップに関する談話

全教は1月24日、標記の書記長談話を発表しました。


1月7日、デジタル庁・総務省・文部科学省・経済産業省の4省庁連名による「教育データ利活用ロードマップ」(以下、ロードマップ)が発表されました。ロードマップは、教育のデジタル化のミッションを「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」とし、2022年頃までの短期目標として教育現場への通信環境の整備を、2025年頃までの中期目標として端末の日常的な使用による教育データの収集と学校・自治体間の連携を、2030年頃までの長期目標としてデータの蓄積・活用による「個別最適な学び」等の実現と、支援を必要とする子どもへの「プッシュ型の支援」の実現を挙げています。全体として「データ利活用」にとどまらず、学校の姿や教育のあり方そのものの根本的な転換を求めるものとなっており、子どもの権利の侵害も危惧される内容です。これほど重大なことが、国民的な議論も無しに、拙速にすすめられてはなりません。以下、6点にわたって問題を指摘します。

第1に、子ども・教職員・保護者に関する個人情報が、「データ市場」とでもいうべき巨大なしくみの中に、まるで商品のように投げ込まれ、蓄積されて、「いつでも」「どこからでも」利活用されるシステムが構築されることです。牧島かれんデジタル大臣は、「教育データの一元化」と報じられたことに対し、「国が一元的に管理するデータべ―スを構築することは考えていない」と会見しました。問題は、「国が一元的に管理」するかどうかではなく、あらゆる教育データを集積する全国共通のシステムが作られ、一人ひとりの大切な個人情報が、本人の知らないところで利活用されてしまうことです。この点に関する危惧は、大臣の会見によっても解決されないどころか、かえって増大してしまいました。

第2に、個人情報保護の点で重大な疑義があることです。情報の漏洩や流出は、万が一にもあってはなりません。しかし、ロードマップは「個人情報等の連携は……原則として本人の同意により提供」などと、あくまで「原則」扱いです。利活用の「ルール・ポリシー(基本的な考え方)」には、「アジャイル思考に立ち、『まずはやってみる』…の精神で」などとも書かれており、基本的人権の1つである個人情報の保護やプライバシーの権利を守り抜く立場に立っているとは、到底言えません。

第3に、誰が、個人情報を利活用するのかという問題です。ロードマップは、学校や自治体、教育委員会だけでなく、教材会社や学習塾、NPOなどの「民間教育機関」も利活用するとしています。子どもを支える場所が増えて良いことであるかのように描かれていますが、教育産業の利益追求のために利活用されることも想定されます。家庭の経済的負担が増え、格差の拡大も危惧されます。憲法に規定された、すべての子どもに「ひとしく」「教育を受ける権利」を保障する責任の所在が不明確となってしまいます。これは、公教育のあり方にかかわる重大な問題です。

第4に、子どもの成長・発達を支える教育の場にふさわしくないことです。子どもの生活、学習にかかわるさまざまな活動履歴が「教育データ」として蓄積され、活用されるとのことですが、その期限は全く示されていません。子どもは、時には間違えたり失敗したりしながら成長していきます。間違いや失敗も含めたすべての活動履歴が、生涯にわたって「データ」として蓄積・活用されることは、子どもの不利益につながりかねません。

第5に、「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」というミッションそのものの問題です。学習履歴等をAIが分析し、その子の理解度や興味・関心、特性に合わせた「個別最適な」学習が提供されることは、「自分らしく学ぶ」ことにはつながりません。それは、「身の丈に合った」学習であって、「もっとわかるようになりたい」「できるようになりたい」という、子どもの願いに即した学習にはなりません。また、「学校は……児童生徒が集うことでしかできない学びを行う」「それ以外の学びは……本人に最適な場所で学ぶ」という記載がありますが、「学び」は、そのように二分されるものではありません。

第6に、教育だけでなく、公務・公共サービスのあり方にかかわる問題です。ロードマップは、「データ連携」によって「支援が必要なこども」への「プッシュ型支援」が可能になるとしています。こうした支援は、これまで各自治体や地域で、教育、保育、福祉、医療等の担当者が、守秘義務を守りながら直に会って話し合い、連携し合って進めてきたことです。“人”が担ってきた、このような業務をデジタルに置き換えることは困難であり、子どもの権利が守れなくなってしまうことも危惧されます。子どもに対する支援を強めるために必要なことは、それぞれの担当者がその任務をしっかり果たせるよう、勤務条件の改善と大幅な人員増を行うことです。

最後に、ロードマップ全体を見ても、また、「データストア」「情報銀行」「データの流通」などの用語が頻出していることを見ても、この構想が、子どもの教育の充実のためというよりも、産業界の発想で作られていることは明白です。コロナ禍で明らかになったことは、子どもの成長・発達にとって、人とのふれあいや直接の体験が不可欠だということであり、学校はその意味でも重要な役割を果たしているということでした。教育のデジタル化を進めるのであれば、そうしたことを踏まえ、教育の場にふさわしいあり方を模索すべきです。

国連子どもの権利委員会 は、昨年3月2日、「デジタル環境との関連における子どもの権利 」と題する意見書を発表しました。この意見書は、デジタル環境が広がるなかで、プライバシーの侵害をはじめとした多様なリスクから子どもを守り、子どもたちに「最善の利益」を保障するために、各国がとるべき様々な方策を示したものです。全教は、この間のデジタル化推進施策と「教育データ利活用ロードマップ」について、政府が、すべての「子どもの権利」を保障する立場に立って全面的に見直し、教育の場にふさわしい施策をすすめることを強く求めます。

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