全教は、9月8日、標記の書記長談話を発表しました。
1、国民的な要求である少人数学級のさらなる前進が求められる概算要求
8月31日、2022年度予算編成に向けた各省庁の概算要求が締め切られました。一般会計の要求総額は111兆円を超え、昨年度の要求総額105兆4071億円を上回り4年連続で過去最大となりました。
文部科学省概算要求は一般会計で2021年度当初予算比11.7%増の約5兆9161億円、文教関係予算は9.1%増の4兆3859億円となっています。保護者、国民の願いである小学校3年生35人以下学級の前進や、教職員・専門スタッフの増員が行われるなど、私たちの要求を一定反映したものとなっています。しかし、すべての小・中・高の35人以下学級の早期実現など、少人数学級のさらなる前進については程遠いものとなっています。全体に「GIGAスクール構想」「教育のICT化」などデジタル化に偏重した概算要求となっています。
(1)国の責任による35人以下学級の早期実現、少人数学級のさらなる前進のために教職員定数の抜本的改善を
教職員定数については、小学校3年生における 35 人学級の推進 3290 人、「通級指導」「日本語指導」「初任者研修」の基礎定数化370人、小学校高学年における教科担任制推進2000人、中学校生徒指導や小中一貫校支援等に475人、合計6135人の定数増を要求しています。しかし、自然減等6912人を見込んでいるため、差し引き777人減、前年度予算比16億円減となっています。
「義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方等に関する検討会議」 の報告を受け、「小学校高学年における教科担任制」について、外国語、理科、算数、体育で、2022年度から4年程度で8800人の定数改善をすすめることが要求され、初年度分2000人が計上されました。対象教科を示したことは、各学校の実態を踏まえて行われる専科指導に影響を及ぼすことが危惧されます。さらに、4年で8800人の「定数改善」は、全国に約2万の小学校があることから見ても、決して十分なものとはいえません。
教職員定数改善については、「少人数学級等の実施のために措置している加配定数の一部振り替えを含む」とあり、教職員定数の「純増」ではないことが示されています。これでは、加配定数を活用して実施してきた独自の少人数学級ができなくなるばかりか、加配が削られる学校では教員不足に拍車がかかるおそれがあります。さらに自然減等6912人は近年にない大規模なものであるにもかかわらず、詳細が説明されていないため、学校で必要な加配定数まで削減されるのではないかという懸念があります。また、中学校の少人数学級についての言及もなく、加配定数について中学校への配置が限られていることから、中学校の教育条件整備が不十分であると言わざるを得ません。
一方で、「補習等のための指導員等派遣事業」は大幅に増額されています。教職員の長時間過密労働、子どもの貧困など多様化する課題に対応するため、専門スタッフの拡充は重要です。
しかし、これらの「教職員定数改善」等は、深刻となる教職員の長時間過密労働の解消や少人数学級前進を求める保護者・国民の声に応えたものとはいえません。国の責任で正規・専任の教職員を増やすため教職員定数を抜本的に改善することが求められています。
(2)国・財界が狙う「デジタル社会の実現」とともに「教育のICT化」「教育再生」を押しつける教育予算
- 「GIGAスクール構想の着実な推進と学びの充実」では、2021年度予算の3倍以上を要求し、その半分以上を「GIGAスクール運営支援センター整備事業」にあてるとしています。
また、「学習者用デジタル教科書実証事業」も大幅増額され、全国の小学校5・6年生、中学校全学年、特別支援学校・学級を対象に実施するとされています。
さらに、全国学力・学習状況調査のCBT化に向け、対象を拡大して、試行・検証をおこなうため、大幅な増額要求がおこなわれています。これらは「民間委託」とセットになっており、「教育のICT化」「教育市場化」を加速させるものです。今後、学校現場で端末の「利活用」が押しつけられ、「『利活用』が自己目的化」すること、学校や家庭での格差をいっそう拡大させることなど、学校現場に大きな混乱をもたらす危険性があります。 - 新時代に対応した高校改革推進事業」として、「普通科改革支援事業」「同一設置者の学校間以外での授業を取り入れたカリキュラム開発」など予算要求が新たにおこなわれました。これらの「普通科改革」をすすめる事業が、民間丸投げになっていることは大きな問題です。また、「専門科改革」として、産業界他関係者と一体になったカリキュラム開発や人材育成をすすめる予算も計上されています。
- こうした予算要求は、1 月に出された中教審答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」 に示された、改訂学習指導要領の「着実な実施」と「教育のICT化」をすすめ、国の定める「資質・能力」を育成するために、中教審答申の「個別最適な学びと、協働的な学びを一体的に充実」を強力にすすめようとするもので、競争的な社会や教育制度のもとで子どもたちをいっそう個別に競わせることが危惧されます。
(3)権利としての教育無償化をすすめる予算が求められている
- 「高校生等への修学支援」については昨年並みに計上され、私立高校等に通う年収590万円未満世帯については、私立高校平均授業料(39.6万円)水準まで支給上限を引き上げるとしており、全国私教連や保護者・高校生の「私学も無償に」のとりくみの成果として歓迎すべきものです。また、高校生等奨学給付金は、第1子給付額などが増額され、貧困と格差が広がる中、低所得世帯への支援拡充として重要です。
- 「大学等における就学の支援に関する法律」 に基づき「高等教育の修学支援新制度(授業料等減免・給付型奨学金)」を確実に実施するとしています。低所得世帯への支援としていますが、財源が消費税の活用を前提としたもので、消費税が低所得世帯に重い負担となることを考えると、矛盾した施策であると指摘せざるを得ません。
- 2017年度から2021年度までの期間、年収400万円未満世帯に年額10万円の授業料補助を支給するとして実施された「私立小中学校等に通う児童生徒への経済的支援に関する実証事業」が、5年間の実証事業期間が終了されたことで、概算要求から消除されています。コロナ禍の影響で、私立高校生より私立中学生に多く学費負担が出ている中での消除は問題です。
- 私立高等学校等経常費助成費等補助については、幼児児童生徒一人当たりの単価を増額するとともに、私立学校の校舎等の耐震改築・補強事業や非構造部材の落下防止対策等の防災機能強化のため大幅に増額要求しています。保護者・生徒・教職員の願いである公私間格差の是正、安定的な経営を支える公的助成など、公教育として国が私学を支える予算を拡充することが重要です。
- 無償教育を漸進的に導入するとした国際公約 を守るため、教育予算の大幅増で国民生活最優先の予算へと抜本的に組みかえることが必要です。
2、憲法と子どもの権利条約にもとづいた教育予算への転換を
全体を通してみたとき、この概算要求はこれまでにも増して「デジタル化」「教育のICT化」予算が盛り込まれ、「教員減らして、PC増やす」というべき予算要求となっています。それは、保護者・教職員・国民の願いと逆行するものです。
全教は、「戦争する国」づくりのための軍拡予算を大幅に削減し、国の責任による35人以下学級早期実現、少人数学級のさらなる前進、正規・専任の教職員増、給付奨学金制度拡充、公私ともに学費無償化など、子どもが安心して学べる教育予算への抜本的な転換を求め、全国の保護者・地域住民・教職員とともに、政府予算編成に向けて全力を上げ奮闘する決意です。