全教(全日本教職員組合)は、2025年12月17日、書記長談話『教育の条理を踏みにじる財政制度等審議会「2026年度予算の編成等に関する建議」の問題点』を発表しました。
12月2日、財務相の諮問機関である財政制度等審議会は、「2026年度予算編成等に関する建議」をまとめました。建議は、高市政権が「強い経済」を掲げ財政出動を志向する中、財政健全化の指標となる基礎的財政収支(プライマリーバランス)の状況をしっかりと確認・検証して毎年度の財政運営に臨むよう、国債発行ありきの政策に一定の懸念を表明しました。
国民の生活と直結した社会保障については、医療と介護で患者・利用者に大幅な負担増を求める一方、安保3文書に基づき、民間の先端技術の軍事利用を重視し、企業や大学による軍事研究を促すため、成果に応じて懸賞金を出したり、自己負担分を国が肩代わりしたりする制度の導入を提案しています。さらに、政府がすすめている民間技術を利用した軍事研究を巡っては、武器・装備品の開発につなげて「目に見える成果を生み出す必要」を迫っています。
教育の課題である「文教・科学技術」においては、教育を子ども一人ひとりの成長が保障される基本的人権として捉えず、あくまで経済成長の手段にする視点が貫かれています。冒頭、「『強い経済』を構築していく上で」、「イノベーション創出等」により、「国力を高める人材の育成」のために「戦略的な投資を行うことで教育・研究の質を高めていく」ことの必要性を述べています。
「予算を増やしさえすれば」、「質的な向上がもたらされる」わけではないことを理由に、ダウンサイジングをし、「科学技術力の確保」等、「投資効果の高い予算に重点投資」をおこなうとしています。つまり、教育予算増には後ろ向きであり、経済効果を高める分野に教育予算を投資するという主張です。
「教職員定数と教員の採用倍率」でも、お金をかけ「教職員定数を手厚く配置してきた」が、2024年度の小学校・中学校ともに採用倍率が過去最低であったことを理由に、工夫の必要性と「適切なダウンサイジング」の推進を提唱しています。教職員のなり手不足を解消できるに足る基礎定数の改善は、実現していません。そのことは、教職員の長時間過密労働が解消されていない実態が物語っています。
「教員の働き方改革」については、「3分類」の徹底とセットで「多様な外部人材の活用」の重要性が述べられています。スクールカウンセラーの全校配置が、不登校児童生徒数増大の歯止めになっていないと、「予算・人員の増加に応じた十分な効果が出ているとは言い難く」とし、これ以上の拡充を否定しています。
「学校規模の適正化」として、「2050年までに全市区町村の約3割が人口半数未満になる」ことを理由に、統廃合することが「適正」だとしていますが、この考えは大きな誤りです。小規模校化により、「クラス同士が切磋琢磨」する教育活動ができないことをデメリットとし、クラス同士が競い合い、「集団学習できる環境」が、教育の質の確保にとって有効だとする考え方は、教育の質を競争力と位置付けることで、教育の目的である人格の完成とは相いれません。子どもの成長と発達を保障し、豊かに学びあう権利を無視しています。登校拒否・不登校児童生徒数が過去最多を今年も更新したと報道があった今だからこそ、国連子どもの権利委員会が日本に対して繰り返し述べている「教育制度の過度に競争的な性格が、子どもの身体的・精神的健康に否定的な影響を与えている」という指摘に、耳を傾けるべきです。
教育の目的を蔑ろにし、国力を高めるための人材育成をねらいとする教育の質の確保は、「切磋琢磨」による競争主義・能力主義的な教育をいっそう推しすすめることにほかなりません。教職員の長時間労働の実態を鑑みれば、統廃合をすすめ教職員を削減することは断じて許すことはできません。国民のいのちと健康、くらしや教育を支える予算こそが求められるべきです。
全教は、教職員の長時間過密労働解消、ゆきとどいた教育実現のために、教育予算を大幅に増やし、基礎定数改善と少人数学級の実現のため、国民の連帯で世論と運動を広げ、たたかう決意を表明するものです。







