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労働時間に関する労働基準法の原則と給特法改正の方向

この文書は、全教(全日本教職員組合)常任弁護団が2023年10月に討議資料として発表したものです。

なお、後半の「自民党特命委員会の「提言」の問題点~「提言」は長時間労働の解決につながらないだけでなく、教育現場に分断と混乱を持ち込みかねない」は、別の記事として掲載しています。


目次

1.労働時間に関する労基法の原則と公務員への適用

(1)週40時間、一日8時間の原則

「労働時間」の根本規定は労基法 32条である。同条は週40時間、一日8時間の法定労働時間制の原則を定めている。週40時間、一日8時間の労働時間は、「人たるに値する生活を営むための」最低基準である(労基法2条1項)。使用者は例外に該当しない限りこの枠を超えて労働「させてはならない」。そのような労働をさせると使用者が処罰対象になる。

この「労働時間」とは「使用者の作業上の指揮監督下にある時間または使用者の明示または黙示の指示によりその業務に従事する時間」(菅野和夫『労働法』12版496頁)などと解される。そこで、労働者が業務上の必要性があって居残り残業をする場合は、使用者がその状況を一般的に認識していれば、労働時間に該当するのが一般的である。大学教員の教授研究、新商品や新技術の研究開発、テレビや映画のプロデューサーなど、創造性や裁量性の大きい業務であってもこの定義に合致すれば「労働時間」に該当することに変わりはない(労基法38条の3の専門業務型裁量労働制を参照)。

(2)地方公務員への適用

公務員の「勤務時間」もこの労働時間と同じものである。地方公務員にも労基法が適用され、一般的に、労基法32条の枠内で、週38時間45分、一日7時間45分の労勤務時間制度になっている。

一般職の地方公務員の場合、法定労働時間制の例外に該当するのが① 災害その他避けることのできない事由で臨時の必要がある場合(労基法33条1項)、②公務のために臨時の必要がある場合(同3項)、③労働組合との協定(三六協定)を締結し監督機関へ届出している場合(労基法36条)に限定される。②の「公務」の内容は無限定であり、さらに「臨時の必要」が緩やかに解釈され、仮に職員労組との間での三六協定がなかったとしても残業させることが可能である。

残業(超過勤務)には割増賃金(時間外勤務手当)が支払われる。割増賃金は労基法37条に定められた制度であり、時間外労働等について使用者に割高な賃金の支払を強制することでその種の労働を抑制しようとするのが第一の意義である。第二の意義は強度の労働を強いられることについて労働者への補償を行うことである。

2.給特法による教育職員の例外

公立の小中高、特別支援学校、幼稚園等の教育職員には、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法 )が適用され、同法6条とそれに基づく政令で上記の例外②がさらに修正されている。まず、残業を命じられる「公務」が「生徒の実習」「学校行事」「職員会議」「非常災害や児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業」に限定される(限定四項目)。つまり、時間外労働は原則として禁止されている。そしてそれらの業務を行わせることが「臨時又は緊急のやむを得ない必要があるき」に限定されるのが本来の制度である。

一方、教育職員の給与について、給料月額の4%の教職調整額が追加支給され(同法3条1項)、時間外勤務手当、休日勤務手当が支給されない(同法3条2項)。これは、時間外労働等をさせないから、それに対応する手当の規定がないだけであり、現実に時間外労働等をさせた場合には、時間外勤務手当を支払うのは判例上当然である(最高裁判決平成14年2月28日 大星ビル管理事件参照 )。

3.教員の“定額働かせ放題”の現実による給特法の枠組みの破綻

現場の教員は、正規の勤務時間中は授業や生徒指導に追われ、勤務時間外も文書作成、テスト採点、成績処理、保護者対応、部活動をはじめ、多様な業務に従事している。それらは全て使用者の指揮命令下の「労働時間」に該当する。全教の勤務実態調査2022 で明らかになったように、残業時間は多くの教員でいわゆる過労死ラインを超えている。そうであるのに、これらは実態を偽って「自発的行為」などとされ、違法状態が蔓延していても、使用者の誰も責任を問われていない。さらに給特法が「教育職員の職務と勤務態様の特殊性」を強調し裁判所も労働時間を労働時間として認めないという逆立ちした判断をしている。このように、過労死ラインを超える残業時間という現実を見て見ぬふりをし、労働時間法制の外に追いやってしまつているのが現状である。そして、これこそが現場の疲弊、続出する離職、教育職員の過労死の続発、若者の「教職離れ」などの原因なのである。このような現実を前に文科省は「正規の勤務時間及びそれ以外の時間において行う業務の量の適切な管理」(給特法7条)のために、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン 」を定め、同ガイドラインやその「Q&A 」で時間外労働等を「在校等時間」として勤務時間管理の対象としている。ガイドラインは、「在校等時間」を労働時間と認めないという根本的な問題があるが、時間外の「在校等時間」の上限規制を定めたことは、時間外労働を原則として禁止する給特法の枠組みが実際には破綻していることを認めたものである。

また、部活動の顧間としての休日の労働について、放射線や有害薬物の取扱い業務に対して支払う「特殊勤務手当」を支給する例(東京都学校職員の特殊勤務手当に関する条例 15条)などは、建前からいえば、休日勤務手当を支給しないとする給特法の「脱法行為」であるし、休日労働に対価を支払うための現場の苦肉の「工夫」というべきである。このように、時間外勤務手当を支払わないという給特法の枠組みも破綻しているのである。

4.原則に立ち返った法改正の必要性

給特法の枠組みが破綻し、労働時間法制が大きく歪められている状況で採るべき是正措置は、原則に立ち返ることである。

(1)「在校等時間」全体が労働時間であることを正面から認めること

まずは、教員が時間外に行う自主的、自発的行為などとされている諸業務(「それ以外の時間において行う業務」)の時間、すなわち現在の「在校等時間」全体が労働時間であることを正面から認めなければならない。

「教育職員の職務と勤務態様の特殊性」があっても教員が行う業務は労働時間なのであり、給特法でこのことを明確化すべきである。教員の長時間労働が問題になっているときに、教員の労働時間に正面から向き合わないのであれば、あらゆる「改革」は弥縫策に陥ることになる。

(2)管理者の労働時間管理義務と違反に対する制裁を規定すること

給特法では、教員の残業は三六協定による労使自治の外にあるものであるものとされている。そして、過労死ライン超の違法残業がまかり通っている現状があるにもかかわらず、違法残業をさせることに実効的な歯止めが設けられていない。このような現状からすれば給特法7条を抜本的に改め、使用者による教育職員の労働時間管理義務を明記し、逸脱行為に対する制裁を法定すべきである。もちろん、管理職の人事評価でも管理能力の評価の観点に教育職員の労働時間管理能力を入れるべきである。そして、長時間労働を助長することになる1年単位の変形労働時間制は廃止すべきである。

(3)労基法37条(時間外勤務手当)の適用除外規定を削除すること

賃金については、まず、教職調整額が教員の職務の専門性、特殊性に対応する職務給であり、時間外勤務手当ではないことを明定すべきである。

そのうえで、時間外勤務手当等の不支給を定めた給特法3条2項を削除した上で、同法5条の労基法37条の適用除外を削除し、限定4項目に関する超過勤務についても原則通り時間外、休日勤務手当を支払うべきである。限定4項目該当の勤務は残業に他ならないからである。限定4項目以外の違法残業をさせた場合でも、時間外、休日勤務手当は支払われなければならない。すなわち原則として現在の「在校等時間」全てに対して賃金が支払われなければならない。

現状追認する勤務時間管理制度を作つたり、趣旨の曖味な手当を支払うのでは時間外労働には割増賃金を支払うという原則は徹底されなければならない。そのうえで、教員の業務が所定時間に納まるように、教員を増やし、業務を減らす計画を具体的に立てることを国、自治体、管理者に義務付けることが必要である。

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